TX081 国の債務は、安全保障に対する最大の脅威

 加藤氏は、上記のタイトルで“ウエッジ“に寄稿された記事(April 2022)の中で、“他の先進国が財政健全化を目指す中、唯一取り残されている日本。地政学的リスクなど厳しい現実を直視し、長期的な戦略を議論するべき”だと主張されています。そして、もと米国統合参謀本部議長であった、マイケル・マレンが、元国務長官、元国防長官と連盟で発表した声明文での示唆を、今の日本国家は真摯に受け止めるべきだと、地政学的リスクを前提にして警告されています。

 その示唆の本質とは、“我々は、この国の長期的な債務は、国家の安全保障に対する最大の脅威になると信じている。債務は、強力な軍隊、友好的な外交のための資金調達に不可避的な制約をもたらし、経済成長にとっ重要な投資や、国際社会でのリーダー的役割を弱めてしまう。”ということです。日本の防衛力の要が、日本の経済力(GDP)に依存していることは常に討論されてきていましたが、日本経済の長期的な債務(国債)が、日本国の安全保障に及ぼす悪影響については、あまり議論されてきていません。ましてや公に、債務膨張の主要な要因とされる日本の人口問題について、そのこと自体を、国家の安全保障問題に結びつけて議論されたことがあるかどうかは、非常に疑問です。今回のテキサス便りでは、国の防衛力の強化、維持の必要性という視点から、人口問題が、国の経済に及ぼしている影響、そして、日本の人口構成比がその国の経済成長に及ぼすと予測される課題について検討する為の基礎知識に注目して、日経の記事を集めてみました。

国家の債務は安保上”最大の脅威”日本よ、目を覚ませ

Wedge、4月、Vol.34 No. 4 by加藤出(Izuru Kato)

1.スウェーデン救った「子への投資は国の将来への投資」

人口と世界 ストックホルム大学准教授 リビア・オラー氏

――スウェーデンは1930年代、深刻な出生率の低下に直面しました。

 「世界的な不況だったとはいえ、当時の出生率は1.7とかつて経験したことがないほど低かった。誰もが答えを模索するなか、脚光を浴びたのが1934年にグンナーとアルバ・ミュルダール夫妻が出版し、出生率を再び高めるためにどうすべきか示した『人口問題の危機』という本だ」

ミュルダールのどんな主張が画期的だったのですか。

 「当時は多くの女性が働くようになり、それが少子化の原因になっているとみなされていた。働く女性が仕事を辞めず出産しないことを問題視し、出生率低下の責任は女性にあるとされた」

 「ミュルダールはこれを覆し、働く女性が子供を産み育てるのが難しい社会の方に問題があると主張した。子育ての責任やコストは社会全体で負うべきで、政府は補助金を投入し、質の高い公的な保育サービスを提供すべきだという考えだ。未来の労働者である子供に投資するのは、国の将来への投資とみなした。これは現代のスウェーデンの家族政策の礎だ」

――出生率の向上に影響を与えた政策はありますか。

 「1971年、家族ごとに課税する制度から個人ごとの課税制度に変えた。性別や婚姻状況にかかわらず、すべての人が自らの分の税金を払うことになり、既婚女性も自分の所得を持とうというインセンティブが働いた」

 「多くの女性が働きだしたため、出生率はいったん落ち込んだ。政策立案者はミュルダールの提案に立ち返るべきだと考え、70年代に公的な保育制度を構築し始めた。2002年にはマックス・タクサという制度を導入し、親が払う保育料に上限を設けた。第1子の場合、世帯収入の3%までと決まっている」

――男性の育児参加も重要です。

 「世界に先駆けて男性も取得可能な育児休業制度を74年に導入した。95年には育児休暇の一定割合を父親と母親のそれぞれに割り当てる制度を導入し、父親の育児参加を高めるきっかけになった。父親の休暇は母親に移すことができず、父親に割り当てられた休暇の消化を促した」

 「この制度があるため、雇用主は父親も育児休暇を取らざるを得ないと理解する。いまや男性も雇用主と育休の取得交渉をするようになり、女性の職場での立場が良くなる。これは労働市場が男女平等を実現するための重要なステップにもなる」

2.スウェーデン、人口危機の教訓 家庭への支援は日本の倍

人口と世界 下り坂にあらがう(1)

 ウクライナ侵攻で長年維持してきた軍事的な中立政策を転換したスウェーデン。実は以前にも「国のかたち」を大きく変えたことがある。世界有数の高福祉国家へとカジを切った原点は、出生数の急減で「国民がいなくなる」とまでいわれた1930年代の人口危機だった。

 ストックホルム近郊に住む高校教師パスカル・オリビエさん(49)は4人の父親だ。子育てのため計3年強の育児休暇を取得した。「手続きも柔軟で非常に簡単だった」

 スウェーデンでは子が8歳になるまで、両親が合計480日の有給育児休暇を取得できる。オリビエさんが約6割、妻が残りを取得したという。

 スウェーデンが社会保障先進国になったのは、90年前の経験がある。

子育て、社会全体で支える

 19世紀以降に「多産多死」から「少産少死」への転換が進み、スウェーデンの出生率は大恐慌のころ、当時の世界最低水準ともいわれた1. 7程度まで落ち込んだ。国の針路を変えたのがノーベル賞経済学者グンナー・ミュルダールだ。当時の世論は二分していた。「女性の自由を制限してでも人口増につなげるべきだ」「人口減は人々の生活水準を高めるので歓迎だ」。ミュルダールはどちらの主張も批判し、出生減を「個人の責任ではなく社会構造の問題」と喝破した。

 人口減に警鐘を鳴らした1934年の妻との共著「人口問題の危機」を機に政府は人口問題の委員会を立ち上げ、ミュルダールも参加した。38年までに17の報告書をつくり、女性や子育て世帯の支援法が相次ぎ成立した。これがスウェーデンモデルと呼ばれる社会保障制度の基礎となった。

 74年には世界で初めて男性も参加できる育休中の所得補償「両親保険」が誕生した。妊娠手当、子ども手当、就学手当などの支援は手厚く、大学までの授業料や出産費も無料だ。育児給付金は育休前の収入の原則8割弱。税負担は重いが「十分な恩恵を得られる」(オリビエさん)。

 女性の就業率は高く、現政権の閣僚も半数が女性だ。家族支援のための社会支出は国内総生産(GDP)比で3.4%と、米国(0.6%)や日本(1.7%)をはるかにしのぐ。「90年の大計」をもってしても少子化に抗するのは簡単ではない。それでも少子化対策は未来への投資だ。「ミュルダールは特に若い層向けの福祉政策を人的資本の投資ととらえ、生産性を高める経済政策を兼ねると考えた。その理念は今も生きている」(名古屋市立大の藤田菜々子教授)

国の姿勢が出生率左右

 一方、スウェーデンと同じく1930年代に出生率が低下した国の明暗は分かれる。

 「子供を産まないか、1人でいいと考える夫婦が増えているのは悲劇だ」。ローマ教皇フランシスコは2020年末、少子化が進むイタリアに強い警戒感を示した。

 1922~43年のイタリアのファシスト体制は、人口増による国力拡大を掲げて出産を奨励した。その反動で人口増加政策が取りにくくなったとされる。2020年の出生数は40万4892人と最少。政府は21歳まで月に最大175ユーロ(約2万4千円)を支給する子ども手当の導入を決めたが、出遅れは否めない。

 解はどこにあるのか。スウェーデンと並び少子化対策の成功例とされるフランス。100年以上の悲願だったドイツとの人口再逆転を、今世紀中に達成する見通しだ。

 仏は19世紀前半に独に人口逆転を許し、19世紀後半の普仏戦争敗北は「人口で負けたからだ」との危機感が染みついた。仏は「仕事と家庭の両立」を軸に社会制度を大きく見直した。ドイツは「子供の面倒を見るのは母親だ」という保守的な家族観が一部に残る。

 国連が7月に改定した人口推計で、世界人口の年間増加率が統計を遡れる1950年以降で初めて1%を割った。人口減は世界共通の課題だ。

 日本も89年に出生率が戦後最低を記録した「1.57ショック」以降、少子化への意識は高まったが、一貫したビジョンを持って対策してきたとは言いにくい。国家存亡の危機に際し、スウェーデンのように大胆な改革に踏み切れるかどうかが国の浮沈を左右する。

3.出生率反転、波乗れぬ日本 先進国の8割上昇

2022年7月31日 (日経)

 先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。

 経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な23カ国の21年の合計特殊出生率を調べると、19カ国が20年を上回った。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が足元で反転した格好だ。

 21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけての子づくりの結果だ。まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期。スウェーデンのウプサラ大学の奥山陽子助教授は「出産を控える条件がそろい、21年の出産は減ると予想していた。それでも北欧などでは産むと決めた人が増えた」と話す。

 理由を探るカギの一つが男女平等だ。20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった。世界経済フォーラム(WEF)の22年版ジェンダーギャップ指数で首位だったアイスランドの21年の出生率は1.82。20年から0.1改善し、今回調べた23カ国で2番目に伸びた。

 19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランドは2年連続で上昇し、21年は0.09伸びて1.46まで回復した。奥山氏は「長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい」と指摘。コロナ禍で在宅勤務が広がるなか「男性の子育ての力量が確認された」という。

日本は状況が異なる。

 「第2子を期待したが諦めた」。埼玉県に住む30代の共働き世帯の女性は肩を落とす。コロナ禍で夫婦とも在宅勤務が増え、夫が家事・育児に加わり2人目の子を持つ余裕ができると考えた。結果は「頼れないことがわかった」。自宅で何もしない夫のケアまで上乗せされ、逆にコロナ前より負担が増えたという。

 先進国の中でもジェンダー格差が大きい日本と韓国の出生率はいずれも0.03下がった。韓国は出生率0.81と深刻で、日本も1.30と人口が加速的に減る瀬戸際にある。家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある両国は女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まった恐れすらある。

 ジェンダー格差とともに少子化に影を落とすのは収入だ。東京大学は男性を年収別のグループで分けて40代時点における平均的な子供の数の推移を調べた。2000年以前は差が小さかったのに対し、直近は年収が低いグループの子供の数が高いグループの半分以下になった。

 十分な収入を確保できない状況が続けば育児は難しい。共働きで世帯収入を増やすことは出生率を底上げする。

 先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上がるほど出生率は下がる傾向にあった。最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子供を持つ傾向があり、直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い。

 日本は女性の就業率が7割と比較的高いにもかかわらず出産につながりにくい。家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった多岐にわたる原因が考えられる。保育の充実といった支援策に加え、男女の格差是正から賃金上昇の後押しまであらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる。

ジェンダーギャップ

 社会や家庭などで男女の違いから生じている格差を示す。各国の格差の度合いを比べる指標として世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数」が知られる。2022年版で日本の指数は146カ国中116位と主要7カ国(G7)で最低だった。日本はこれまでも下から2~3割の順位が定位置となっており、男女平等の実現で出遅れている。

 指数は経済、政治、教育、健康の4分野に関する統計データから算出する。日本は特に政治が139位、経済が121位と遅れが目立つ。識字率や初等教育の就学などでは男女同等だが、国会議員や管理職の女性比率の低さなどが足を引っ張る。意思決定の場に女性が少ないと格差を生む社会構造が温存されやすい。

 多岐にわたる男女格差のなかで特に焦点となるテーマの一つが賃金だ。ジェンダーギャップ指数が1位のアイスランドは18年、企業が男女の同一労働同一賃金を証明するよう世界で初めて義務付けた。期限までに証明できない企業には罰金を科す。日本も今年7月、女性活躍推進法の省令改正で大企業などに男女の賃金格差の情報開示を義務付けた。実際に賃金の男女差がどこまで縮小されるかが注目される。

 人口問題に関して日経の下記の記事も参考にして下さい。

【第1部~第3部】

人口と世界・第1部「成長神話の先に」まとめ読み

人口と世界・第2部「新常識の足音」まとめ読み

ロシア・中国、衰退が招く危機 人口と世界・第3部

Best regards,
Shoichi Sugiyama, Ph.D.

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