Learning Management System調査

Learning Management System(LMS)について、どのようなベンダーが広く用いられているのか、導入の留意点などについて明らかにするため主に米国における状況を調査した。

サマリ

  • 高等教育向けのLMSはBlackboard社が群を抜いて市場をリードしている。導入機関数、ユーザー数ともに市場の3割を超え、2位以降を突き放している。
  • LMSは主に商用・オープンソース・小規模特化型に分けられるが、商用と少数のオープンソースが市場を分け合っている。
  • 近年のLMSの特徴は、マルチモーダル化・クラウド化が挙げられる。ビジネスサイクルが長いため、システムの更新が全ての機関で進んでいる訳ではない。
  • LMSの選定には、技術的な側面はもちろんのこと、教育機関の教育方針・授業形態・授業内容に合致させることが重要で、マーケティング機能を担う物まである。

業界

業界、特に高度教育の分野では近年新規参入が相次いで競争が激しくなっているが、Blackboardが長年リーダーを担っている。長いセールスサイクルと教育機関の腰の重さからLMSのリプレースは進んでこなかった。しかし、クラウドのおかげで後述のように多数のベンダーが参入し、一部ではオープンソースのMoodleやSakaiへの移行が見られる。これらベンダーはその特性から大きく3種類に分けることができる。なお、こちらの統計によれば、おおよそ半数以上の教育機関が利用者1,000名を超える規模である。

商用LMS

最も一般的で広く利用されているシステム群。近年の傾向はコミュニケーションツールの充実によって従来の一方向的な授業スタイルからの脱却、クラウド化対応などが挙げられる。前述の統計からも分かるように、利用しているのは概ね数千人規模の受講者を抱える教育機関である。

ベンダー例:

  • Blackboard (ANGEL、WebCTを保有)
  • D2L
  • Instructure
  • itslearning
  • Schoology
  • Teamie
  • Canvas
  • Pearson Learning Studio (前eCollege)
オープンソースLMS

去20年ほどの間に、大学が中心となって商用LMSから距離を置くことで発達してきたシステム群。コミュニティソースソフトウェアのSekaiは過去4年間でIndiana University、University of Michiganなどがプロジェクトから抜けたことで規模が縮小されるなど、不安定な要素はあるものの国際的に利用されている。

ベンダー例:

  • Sekai
  • Moodle
特化型ソリューション (CBE・LRMS・MOOC)

だ市場は小さくプロジェクトベースでの導入が進んでいる程度だが、決められた時間数などで単位を授与する従来の教育に対して、身についた能力で評価していくCompetency-Based Education (CBE) や、高等教育においては教育者と被教育者間の関係性が重要とするという考えに基づいたLearner Relationship Management Systems (LRMS)と称するシステムなどがある。

ベンダー例:

  • Ellucian
  • Motivis

企業紹介

ここでは、米国でマーケットシェアの大きい方から3つの企業・団体について、それぞれの詳細を記述した。Blackboardはこの業界での大企業的存在、Moodleはオープンソース、Canvasは両方の要素を取り込んだ新興企業という様相で、それ以下の企業はおおよそこれらの要素の組み合わせと見受けられる。

Blackboard Inc.
  • 設立: 1997
  • 売上: N/A
  • 従業員: 1,000-5,000
  • ウェブサイト: http://www.blackboard.com
  • 本社所在地: Washington DC, U.S.A
  • 分野: K-12, Higher Education, Government, Business
  • 詳細:
    • 高等教育だけでなく、ビジネス向けなど幅広い顧客に対して教育用ソリューションを提供する米国のマーケットリーダー。提供形態も多岐にわたり、Blackboard Learn / Collaborate / Connect / Mobile / Analyticsという5つのプラットフォームを提供している。名前から想像できるように、様々なコミュニケーション手段 (voice / email / text) を統合し、バーチャルミーティングやインタラクティブホワイトボードを駆使しながら教育を実施できるようにしている。
    • 近年ではMoodleを提供する企業やアナリティクス関連企業を次々と買収し、さらなる市場拡大と製品の充実を図っている。米国だけでなく、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアでも事業を行う。(日本には無いが、中国・韓国にオフィスがある。)
    • 大御所であるため、オンプレの場合は古いデザインの画面があったり、複雑な製品体系を使いこなす必要があったりすることが考えられるが、現在のオンラインを前提とした働き方を考えると学生にこのような統合的なインフラを提供することは非常に有意義に思える。
Moodle
  • 設立: 2002
  • 売上: Open source
  • 従業員: 30
  • ウェブサイト: https://moodle.org
  • 本社所在地: Australia
  • 分野: Higher Education
  • 詳細
    • 4/27現在、233ヶ国、8万近くの利用登録がある。(ユーザは1億人以上。) オーストラリアにあるMoodle HQが開発し、世界に60社あるパートナー企業がサポートしている。モバイル・チャット・フォーラムといったウェブの基本機能を網羅し、Facebookのような使い勝手を実現している様子。
    • 特に、フルタイムの学生が5,000人未満では商用製品のライセンスコストが上昇することから、中小教育機関から人気を得ている、ドキュメントも日本語を含む10ヶ国語以上に翻訳されており、幅広い支持が伺える。また、他社が30日間の無料トライアルを提供する中、オープンソースなのでデモやダウンロードに気軽にアクセスできる。
    • Moodleの一部の機能のみを利用してQAサイトを作ることなども可能でフレキシブルである一方、ビデオ会議を内臓するといった先端のコミュケーションに欠ける点が、先端IT学校のインフラとして十分かという議論はある。
Canvas
  • 設立: 2008
  • 売上: N/A
  • 従業員: 900+
  • ウェブサイト: https://www.canvaslms.com
  • 本社所在地: Utah, U.S.A
  • 分野K-12, Higher Education
  • 詳細
    • Canvasは2011年にリリースされてから、2,000以上の大学で導入されている。アダプションの高さとコンフィグの少なさをを売りにした、クラウドベースのシステムを提供している。
    • 機能的にはビデオレカンファレンスやワード機能はもちろんのこと、ウェブ上の他のサービス (教育に特化したものだけでなく、YouTubeやソーシャルメディアまで) とのインテグレーションが簡単にできるようになっていて、洗練されたMACのようなデザインでよくできている。教育者側にもクイズの作成からアナリティクスまで提供されており、out of the boxでかなり使えそうな印象がある。
    • ウェブサイトもオープンなFAQが整備されており、シンプルかつ現在的な作りとなっている。比較的新しい設立年を合わせて考えると、企業としてのサポートと先端の技術を取り入れていく柔軟さが取引先としては良いバランスを持っていると予想される。

ベンダー選定のヒント

高等教育の発展のためにIT技術者を支援する非営利団体EDUCAUSEによれば、LMSの選定と導入に特有の挑戦として、教育プランや教育機関の方針との適合・教員の教授スタイルとの調和・高いクオリティのコンテンツ作成、といった点がある。これらの理由から、選定と導入に当たっては学生・教員を含む全てのステークホルダーを巻き込むべきとされている。

通常の要件定義と同様にステークホルダーの実現したい授業内容、形態に応じて細かな要件が決定され、そこから実際に選定作業が始まる。教育用システムの当該工程を助ける物として、いくつかのチェックリストが提案されている。ちなみにChoosing a Learning Management Systemの中では業界標準も議論されており、検討の際にコンプライアンスを考慮に入れるのも一案。

システム選定チェックリスト例:

実際の教授陣との教授内容・スタイルについて持たれている考えを引き出すと共に、上記に照らして過不足を補い、選定・提案作業を行うことができる。参考までにLearning & Talent Systems Core to Driving Performanceから人気のある機能を調査した結果が公開されている。モバイル対応に高い要望があり、マーケティング・サーベイ・ソーシャルネット対応・クラウドベースなどが続いていて興味深い。

先述のサイズから分かるように、利用者が1,000名未満の場合は、機能をある程度犠牲にしてもMoodleのように費用を抑え経験を積めるLMSから始めることが良いように思われる。実際の授業者の要望、利用者の希望とのフィットギャップ分析を行い、今後数年間の規模の拡大に応じて、上記のLMS、そしてさらなる中小規模の特化型LMSの追加調査・検討を行いロードマップを作成、長期的支援体制を構築することが望ましい。

所感

最近の学生はWhatsappやメール・Skype・Office 365・Google Driveを駆使し、国や地域を超えてグループワークや就活などをする。これら既に多数あるシステムに加えて新たなシステムが導入されると乱立によって不評ということもある。LMSがこれら確立されたツールの使い勝手を凌駕するとは考えにくいので、それらと連携する方針をとっているLMSの方が学生の受けは良いと思われる。

最近、Udemyや、大学のコースを有料で解放しているCourseraや企業が中心となって実践的なコースを提供するUdacityなどがSFベイエリアではかなりの人気を博している模様。また定額制のSkillshareは実用的でありながら月$10と価格も十分に安い。

さらに、転職したい人や新しい分野で技術を身に付けたい人のために、数ヶ月間フルタイムで授業を提供するGeneral Assemblyと呼ばれる学校が人気がある様子だ。中身は最新のプログラミングや機械学習など。Googleなどの企業向けにもコースを設けている。学生が新しいキャリアを築くというモチベーションを持っていることや、人材市場の高い流動性、教育内容と需要との合致が学校が成功する必要条件か。

EdTechと呼ばれるこの領域もFinTechやAdTechなどと並んで盛んに技術的革新が提案されている分野の一つであり新興企業が多数あるものと思われるが、教育機関のスピード感とは依然相容れないことが予想される。この点において、プロジェクト進行のためのステークホルダーマネジメントも丁寧にフォローすることが求められる。

 

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